はじめに
焼魚あまねです。
前回のゲーム開発ログでは、制作中のビジュアルノベル『吸血天使のユニット戦線』をフルボイス化することについて紹介しました。
キャラクターに声がつくことで、会話の雰囲気や登場人物の感情を、これまで以上に豊かに表現できるようになるのではないかと期待しています。
しかし、フルボイス化を進めるにあたって、避けて通れない問題があります。
それは、膨大な数の音声ファイルをどのように制作し、管理していくかということです。
今回は、実際に必要となる音声の規模を試算しながら、制作における課題や今後の方針について整理してみたいと思います。
フルボイス化にはどれくらいの音声が必要なのか?
まず、制作中のシナリオをもとに、必要となる音声の規模を見積もってみました。
現段階での概算は、以下のとおりです。
| 項目 | 規模 |
|---|---|
| シナリオ | 全50話以上 |
| 音声ファイル数 | 約4,500件 |
| 音声化する文章量 | 約15万字 |
| 音声化の対象 | 主にキャラクターの台詞 |
もちろん、これらは現時点での見積もりであり、今後のシナリオ修正や制作方法によって変化する可能性があります。
それにしても、約4,500件という数字はなかなかのものです。
例えば、音声ファイルを1件制作するのに平均3分かかると仮定すると、それだけで225時間になります。
仮に1件あたり1分まで短縮できたとしても、75時間です。
しかも、これは単純に音声を制作する時間だけの計算です。
実際には、音声の確認や調整、ファイル管理、ゲームへの組み込みなども必要になるため、作業量はさらに大きくなると考えられます。
音声合成ソフトを活用した制作
今回のフルボイス化では、音声合成ソフトを活用することを考えています。
音声合成ソフトを利用すれば、一つひとつの台詞を録音する必要がなくなり、音声制作の負担を軽減できると期待しています。
ただし、音声合成だからといって、すべてが自動的に完成するわけではありません。
例えば、文章によっては意図しない読み方になることがありますし、句読点の位置や台詞の内容によって、イントネーションが不自然になる場合も考えられます。
感情表現についても、場面に応じた調整が必要になるでしょう。
特にビジュアルノベルでは、同じ言葉であっても、登場人物の感情によって伝わり方が大きく変わります。
怒っている場面と落ち込んでいる場面では、声の強さや抑揚が異なるはずです。
こうした部分まで丁寧に調整しようとすると、音声合成ソフトを利用したとしても、相応の時間がかかることになりそうです。
音声を用意すること自体が目的ではなく、作品の演出として違和感なく成立させることを大切にしたいと考えています。
キャラクターごとの声を統一したい
音声制作において重要だと考えているのが、キャラクターごとの声の統一です。
本作には複数の登場人物がいるため、それぞれの個性を表現できるようにしたいと思っています。もちろん、声質だけでなく、話す速度や抑揚、感情表現などもキャラクターの印象に関わってきます。
例えば、普段は落ち着いた話し方をするキャラクターが、感情的になったときにどのような声になるのか。あるいは、元気なキャラクターと物静かなキャラクターでは、同じ台詞を話したとしても、その印象は大きく異なるはずです。
そこで、音声制作の際には、キャラクターごとの基本設定をできる限り共通化し、必要に応じて調整できるようにすることを考えています。
また、音声合成ソフトの辞書機能なども活用し、固有名詞や特殊な読み方が必要な言葉について、毎回同じ修正を繰り返さなくても済むようにしたいところです。
本作には独自の固有名詞も多いため、読み方の統一は特に重要になりそうです。
こうした準備には多少の時間がかかるかもしれませんが、長期的には作業の効率化につながるのではないかと思っています。
約4,500件の音声ファイルをどう管理するか
音声制作そのものと同じくらい重要になりそうなのが、ファイル管理です。
約4,500件もの音声ファイルを扱うとなれば、単純にファイルを保存していくだけでは、後から目的の音声を探すことも難しくなってしまいます。
特に問題になるのは、シナリオの修正が発生した場合です。例えば、あるキャラクターの台詞を少し変更したとします。その際、修正前の音声がどのファイルなのか分からなければ、探し出すだけでも時間がかかってしまいます。
また、古い音声を残したままにしてしまうと、ゲーム内で誤った音声が再生される原因にもなりかねません。そのため、音声ファイルとシナリオの台詞を正確に対応させられる仕組みが必要だと考えています。
具体的には、以下のような点を整理しておきたいところです。
- 音声ファイルの命名規則を統一する
- キャラクターやシナリオごとにファイルを分類する
- 台詞と音声ファイルの対応関係を管理する
- 修正が必要になった音声を把握できるようにする
- 古い音声と新しい音声を混同しないようにする
また、音声ファイルの整理や管理については、必要に応じて専用のプログラムを用意することも考えています。
こうした作業を効率化することで、音声の品質調整やゲーム全体の完成度を高める作業に、より多くの時間を使えるようにしたいと思っています。
ゲームへの組み込みにも工夫が必要
音声ファイルを用意したとしても、それだけでフルボイス化が完成するわけではありません。
制作した音声をゲームへ組み込み、実際の会話シーンで正常に再生されるようにする必要があります。
本作はティラノスクリプトを使用して制作しているため、音声の再生処理についても、既存のシナリオやメッセージ表示の仕組みと整合性を取らなければなりません。
例えば、キャラクターが台詞を話す際には、対応する音声が再生される必要があります。
また、プレイヤーが文章を読み進めたときに、再生中の音声をどのように扱うかという点も考えておきたいところです。
一般的なビジュアルノベルでは、音声の再生中に文章を進めたり、バックログから過去の台詞を確認したりできるものもあります。こうした機能をどこまで取り入れるかについても、ゲーム全体の操作性を考えながら検討していきたいと思っています。
特に本作は長編作品なので、プレイヤーが快適に読み進められることは重要です。フルボイス化によって表現力を高めるだけでなく、従来の操作性を損なわないようにしたいと考えています。
音量や再生タイミングの調整
もう一つ考えておきたいのが、音声の音量と再生タイミングです。
キャラクターごとに音量が大きく異なってしまうと、プレイヤーにとって聴きづらいものになってしまいます。また、BGMや効果音とのバランスも重要です。
例えば、静かな場面では問題なく聞こえる音声であっても、BGMが大きく盛り上がる場面では、台詞が聞き取りづらくなる可能性があります。
そのため、音声を制作する際には、個々のファイルだけでなく、ゲーム内で再生したときのバランスも確認していく必要がありそうです。
再生タイミングについても同様です。
文章表示と音声再生のタイミングが大きくずれてしまうと、せっかくの演出が不自然になってしまいます。こうした問題は、実際にゲームをプレイしながら確認しなければ気づきにくい部分でもあります。
フルボイス化は音声制作だけでなく、最終的な動作確認まで含めた作業になると考えています。
1件あたりの作業時間を減らすことが重要
ここまで考えてみると、やはり重要になるのは作業の効率化です。
約4,500件という規模では、わずかな時間の差が全体の作業量に大きく影響します。例えば、音声1件あたりの作業時間を30秒短縮できた場合、全体ではどれくらいの差になるでしょうか。
4,500件に30秒を掛けると、合計135,000秒です。
時間に換算すると、37時間30分にもなります。
つまり、1件あたりの作業をほんの少し改善するだけでも、全体では数十時間単位の違いが生まれるわけです。
もちろん、単純に作業時間を減らすことだけが目的ではありません。品質を損なうような効率化では意味がないため、時間をかけるべき部分と、そうでない部分を区別する必要があります。
例えば、キャラクターの感情表現や重要な場面の音声調整には、できる限り時間をかけたいと思っています。
一方で、ファイル名の整理や保存先の管理など、機械的に処理できる作業については、なるべく手間を減らしたいところです。
作業の品質を維持しながら、繰り返し発生する負担を減らしていく。
これが、今回のフルボイス化における大きな方針になりそうです。
これについては一気に進めようとせず、空いた時間にちょっとずつ進めていこうと思います。
完成までの作業量は増えるけれど……
今回のフルボイス化によって、ゲームの完成までに必要な作業量は確実に増えることになります。
もともと本作は長編のビジュアルノベルとして制作していることもあり、シナリオや演出、素材の準備など、取り組むべきことは少なくありません。
そこへ数千件規模の音声制作が加わるわけですから、決して簡単な作業ではないと思います。ただ、以前と比べると、制作に利用できるソフトや技術も充実してきました。
また、長年制作を続けてきたことで、制作環境そのものについても、少しずつ改善を重ねることができています。だからこそ、今の環境であれば挑戦してみる価値があるのではないかと思いました。
個人制作だからといって、必ずしも小規模な作品にしなければならないわけではありません。もちろん、完成させることが何より重要ですが、そのうえで自分が納得できる作品を目指していきたいと考えています。
おわりに
今回は、『吸血天使のユニット戦線』のフルボイス化に必要な作業量について考えてみました。
約4,500件、約15万字という規模は、改めて数字にしてみると、なかなか大きなものです。
音声の制作だけでなく、ファイル管理やゲームへの組み込み、動作確認なども考えると、今後の制作にはさまざまな工夫が必要になりそうです。
ただ、こうして作業の全体像を整理してみることで、どこに時間がかかるのか、どのような準備が必要なのかも見えてきました。
今後は、音声制作の環境を整えながら、少しずつ実際の作業を進めていきたいと思っています。フルボイス化によって、これまで文章と立ち絵を中心に表現してきたキャラクターたちが、どのように変わっていくのか。
僕自身、とても楽しみにしています。
今後も制作の進捗や、作業を進める中で気づいたことについて紹介していく予定です。
それでは、また次回!
鯛焼ぷろじぇくと。Official Website