理事長とのやり取りを終え、僕は夜ノ月学園寮へと向かった。
今日から僕はここでの寮生活を開始する。
両親が海外を拠点に働いているので元々一人暮らしには慣れているし、通学しやすいということから寮生活を選択した。
さすがは夜ノ月学園といったところだろうか。
敷地内はちょっとした街のようになっており、敷地の外に出ることなく日常生活をおくることが可能である。
僕は寮に向かう途中で夜ノ月ラーメンというラーメン屋を見つけたので、そこで昼食をとることにした。
メニューやトッピングも色々あるようだったが、夜ノ月ラーメンというのが一番スタンダードなメニューのようだったので、僕はそれを頼んだ。
数分後、僕の前に置かれたそのラーメンは実に良い香りで、味も申し分なかった。
今度来るときはトッピングなども試してみるとしよう。
入学早々、素敵な飲食店を見つけた僕は、上機嫌で店を後にした。
しかし、何だろう?
夜ノ月ラーメンを出てからというもの誰かにつけられている気配がするのだった。
気のせいだと思いたいが、振り向くと木の陰に隠れてこちらを見ている者がいて、それが気のせいでないことを知らせてくれる。
狐(きつね)の着ぐるみ。
その頭部のみを頭にかぶり、首には白く長いマフラー、そして夜ノ月の女子の制服を身につけている。
アンバランスではあるものの、体幹が良いのかはたまた着用し慣れているのか、ふらつく様子は見られない。
世間一般的には、不審者に分類してもおかしくない装いだが、おかしいのが当たり前という認識になってしまいそうなこの学園では一概にそうとは言えないのだろうか?
制服を着ているのだからおそらくこの学園の生徒なのだろう。
本人は気づかれてないつもりなのか、僕が歩き出すとその女子(?)は僕の追跡を再開した。
ここは夜ノ月学園、ここは夜ノ月学園。
これまでの認識は改めなくてはならないのだ。
そう思い込もうとしてはみるものの、やはり彼女が異質な存在であることは明白だった。
ずっとおかしな緊張感をキープしながら追いかけっこをしていても、双方に何の利益ももたらさないだろう。
僕は思い切ってフェイントをかけてみることにした。
走り出してから一度振り向き――――再び走り出すと見せかけてすぐにまた振り向いてみた。
ザザッ――!
狐の少女はその動きに気付いたのか素早く動きを止めたものの、静止と始動のタイミングが完全にずれてしまい、隠れる場所も時間もないので僕と対面することとなった。
――生じる沈黙。
きっと彼女は着ぐるみの下で動揺した表情をしているに違いない。無表情な狐のデザインとのギャップを考えるとちょっとおかしかった。
追跡失敗。
そう判断したのだろう、彼女はしばしコミカルな動きであたふたした後、一目散に逃げていく。
着ぐるみを頭にかぶっているにしてはなんとも機敏な動きだった。
僕はその少女が逃走するさまをその姿が見えなくなるまで見届けてから、寮の自室まで歩を進めた。
狐の少女。
一体彼女は何者なのか?
何故僕をストーキングしていたのか?
考えるときりがない。
学園生活はまだ始まったばかり。
きっといつか再び出会うことがあるだろう。
僕はなんとなくそう確信した。
夜ノ月学園での生活一日目。
何とも目まぐるしい一日だった。
親しみのある友人に出会い、理事長によって強制的に生徒会副会長に任命され、おいしいラーメンを食べ、マスコットと人間のハイブリッドに追いかけられる。
この学園が少しおかしな学園であることを前提としても、僕に対して起こった出来事は異常なものだ。
どう考えても僕は何かに狙われている。
そしてこれはきっと何かが起こる前兆のほんの一部に過ぎないのではないかとさえ思う。
それとも神様が、僕の人生で巻き起こるおかしなことを、間違えて今日という日に詰め込んでしまったのだろうか。
僕はそんなことを自室のベッドに横になって考えたが、ますます混乱するだけだったので、明日から始まる授業に備えて眠ることにした。
そういえば明日は生徒会の会議もあるのだったな。
なんとも不安だらけだ。
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